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きっかけは「卵」。40年以上かけて独自開発されたキユーピーのヒアルロン酸とは_kewpie standard : FILE 09

みなさんは「ヒアルロン酸」にどのようなイメージをお持ちでしょうか? ヒアルロン酸は私たちの体内にあり、肌をみずみずしく保つ関節の動きをスムーズにするなど、大切な役割を果たしています。

しかし、体内のヒアルロン酸は加齢とともに減少し、乾燥肌や関節痛など不調が出てしまいます。キユーピーは1980年代にヒアルロン酸の研究を開始し、このような体の不調にアプローチしてきました。いまでは、食品、医薬品、化粧品など、さまざまな商品の原料にキユーピーのヒアルロン酸が使用されています。

マヨネーズやドレッシングなどの主力商品があるなかで、なぜキユーピーは40年以上にもわたりヒアルロン酸の研究開発を続けているのでしょうか。その背景やヒアルロン酸の可能性、未来へのチャレンジについて、ファインケミカル開発部の栗山慶子と会津貴大に話を聞きました。


ヒアルロン酸はどこにある?体内では40代後半から減少

ー お二人は研究開発本部 ファインケミカル開発部に所属されています。どのような役割を担っているのでしょうか。

会津:食品、医薬品、化粧品などの商品に配合するヒアルロン酸の研究開発を行っています。

栗山:私は、会津さんが研究開発しているヒアルロン酸を使用したサプリメントや化粧品などの商品開発を手がけています。また、ヒアルロン酸やヒアルロン酸を使用した商品にどのような機能があるのか、データを取得するのも私の仕事です。

キユーピー ファインケミカル開発部 栗山慶子

ー キユーピーがヒアルロン酸の研究開発をしていることは、意外だと思われる方も多いと思います。そこで、なぜキユーピーで研究開発をしているのか、始めたきっかけについて教えてください。

栗山:じつはキユーピーとヒアルロン酸には深いつながりがあります。キユーピーの主力商品であるマヨネーズには、ご存知のとおり、卵が多く使われています。その卵を産む鶏の鶏冠(とさか)に、ヒアルロン酸が多く含まれているのです。キユーピーはそこに着目して、ヒアルロン酸の研究開発に取り組むようになりました。

ー ヒアルロン酸は、人間の体にどのような影響をもたらすのでしょうか。

会津:肌や関節などに多く存在し、水分を保持したり、関節のクッションになるような役割を果たしたりしています。体内のヒアルロン酸が加齢などにより減少してしまうと、肌が乾燥したり、膝関節の動きが悪くなったりしてしまい、日常生活に影響をおよぼす可能性があります。ヒアルロン酸は、鶏の鶏冠、豚皮などの素材に含まれていますが、その量はごく僅かであり、通常の食事で十分なヒアルロン酸を摂取することは困難です。そのため、サプリメントなども活用しながらヒアルロン酸を補っていただければと思います。

キユーピー ファインケミカル開発部 会津貴大

付加価値のあるヒアルロン酸をつくる二つの技術

ー ヒアルロン酸は、人が健康に過ごすための重要な物質だといえますね。キユーピーではどのようにヒアルロン酸を開発しているのでしょうか。特徴を教えてください。

会津:主に二つあります。一つ目は「分子量コントロール技術」に優れている点です。ヒアルロン酸は二つの物質が交互に鎖のようにつながってできており、鎖が長いほど、ヒアルロン酸の分子量は大きくなります。鎖の長さを変化させ、さまざまな分子量のヒアルロン酸をつくる技術が「分子量コントロール技術」です。
鶏冠など天然に存在するヒアルロン酸の分子量は一定ではありません。しかし、素材を提供する企業のお客様ごとに希望する分子量が異なるため、「分子量コントロール技術」によりお客様の求めるヒアルロン酸の開発を実現しています。

ヒアルロン酸を濾過している様子

ー 分子量が大きいヒアルロン酸と小さいヒアルロン酸では、どのような違いがあるのですか。

会津:分子量の大きさによって、体への作用が変わってきます。分子量の大きいヒアルロン酸は肌の表面に留まり、うるおいを与え、主に乾燥を防ぐことができます。一方で分子量の小さいヒアルロン酸は肌の角質層まで浸透し、保湿だけでなく肌の細胞の活性化などにもつながることが確認されています。

左:分子量の小さいヒアルロン酸(サラサラとした液状)
右:分子量の大きいヒアルロン酸 (トロリとした液状) 

ー 分子量の大きさによって、体への影響が変わってくるのですね。では、キユーピーのヒアルロン酸の開発におけるもう一つの特徴についても教えてください。

会津:ヒアルロン酸に別の物質を結びつけて、新たな機能を生み出す「修飾技術」です。
ヒアルロン酸は、別の物質と結びつけることで新しい効果を発揮します。例えば、水で洗うと流れ落ちてしまうヒアルロン酸に、肌や髪にくっつく物質を修飾することで、流れ落ちにくいヒアルロン酸をつくることができます。これによりヒアルロン酸の効果が発揮され、肌にはしっとり感、髪には艶のあるしなやかさを与えることができます。
私の部署では、どんな物質と結びつけるとどういった機能が生まれるかを検討し、販売部門と一緒にお客様が求めている機能を実現できているか確認しながら、さまざまな種類のヒアルロン酸を開発しています。

お客様の困りごとがヒントに。ニーズのあるヒアルロン酸を開発するために励んでいること

ー ファインケミカル開発部では、具体的にどのようなヒアルロン酸の研究開発を手がけていますか。

会津:先ほどお話しした二つの技術(分子量コントロール技術・修飾技術)の深掘りをメインに行っています。具体的には、どのような工程を踏むと天然に存在するヒアルロン酸を狙った分子量に調整できるか、という技術の研究です。

ー 狙った分子量になるようコントロールすることは、難しいのでしょうか。

会津:はい。先述したとおり天然に存在するヒアルロン酸の分子量はそれぞれ異なるため、 同じ工程を踏んでも狙った分子量を実現するにはかなり高度な技術が必要です。分子量コントロール技術は当社の強みではありますが、今後さらに研究を重ねて、確実に狙った分子量に調整できるようにしたいですね。

ー つねに技術を磨いているのですね。修飾技術についてはいかがでしょうか。

会津:修飾技術によって新しい機能のあるヒアルロン酸を生み出し、栗山さんの部署と一緒にその機能に関するデータを取得し、それを活用した試作品づくりなどに取り組んでいます。

栗山:先ほど、洗っても流れ落ちにくいヒアルロン酸の例をあげましたが、そのほかにも修飾技術により生み出されたヒアルロン酸があります。
ヒアルロン酸は水によく溶け込む物質ですが、肌のなかには、水だけではなく脂質成分も含まれています。そこで、脂と相性の良い物質と、肌の角質層まで浸透する小さな分子量のヒアルロン酸を結びつけることで、より肌馴染みが良い物質に変化させました。
肌馴染みが良くなることで、肌のバリア機能を高めて肌荒れを改善できます。修飾技術によってヒアルロン酸に付加価値がつけられるのです。

開発中のヒアルロン酸を使用した商品

ー お客様の声が研究開発に活かされたケースはあるのでしょうか。

栗山:ハンドクリームをテスト販売したときに、お客様から「手を見ると年齢を感じてしまう」という意見をもらうことがありました。その困りごとを解決できないかと考え、肌の角質層まで浸透する、分子量の小さなヒアルロン酸を使用し、肌に潤いやハリを与え、シワも改善してくれる商品を開発した経験があります。
会津さんも販売部門と連携していると言っていましたが、私も販売の皆さんに同行したり、お客様が集まるような展示会に行ってみたりして、お客様の声を聞く機会をつくっています。そして、お客様の困りごとにヒアルロン酸がどう役に立てるか、どんなヒアルロン酸があると良いのかを考え、日々研究に取り組んでいます。

ヒアルロン酸の粘度を測定

ー ヒアルロン酸の研究開発をしていて、やりがいや喜びを感じるのはどんなときでしょうか。

会津:目薬などの医薬品にもヒアルロン酸は使われているのですが、その開発期間は数年に及ぶこともあります。長い年月をかけて開発したヒアルロン酸が医薬用途の商品として世の中に出回り、症状に苦しむ患者さんに貢献できている。そのように実感できたときに、やりがいを感じます。

ー 栗山さんはいかがですか。

栗山:ヒアルロン酸は単なる保湿成分ではありません。そのポテンシャルを引き出し、「伝わる価値」に変えることができたときにやりがいを感じます。
例えば、分子量の小さいヒアルロン酸について、肌に塗るとシミやくすみを改善するといった新たなデータを取得し、化粧品メーカーのお客様にご説明した際に、その価値を認めていただけたときには喜びを感じました。
また、キユーピー社内にも私たちが開発した商品を使っている人もいて、「これを飲んだら、調子が良くなってきたよ」と声をかけてもらうこともあります。そうした瞬間にも、やりがいを感じますね。

ヒアルロン酸の価値を広げ、世界中の人々の健康に貢献したい

ー ヒアルロン酸を通して、今後社会にどのような価値を提供していきたいと考えていますか。

会津:キユーピーのヒアルロン酸は食品、医薬品、化粧品と広い領域で使われています。海外でも使われているので、世界中の人の困りごとを解決できると思っています。私自身はいま医薬品の開発をメインに行っており、キユーピーでしかつくれないヒアルロン酸によって、病気に苦しむ人々が健康な日々を過ごせるような商品を生み出していきたいと考えています。

栗山:いま、会津さんが言われたように、キユーピーのヒアルロン酸はさまざまなカテゴリーの商品に含まれ、世界中の人々に使われています。だからこそ、病気の予防から治療まで広く貢献することができると思っています。私は食品と化粧品の領域に関わっていますので、病気の予防につながる商品を通して、世界の人々の「未来の健康」に貢献していきたいですね。

ー 最後に、今後ヒアルロン酸の開発で挑戦してみたいことがあれば、一言お願いします。

会津:現在は目薬や膝関節の痛みに対応するための商品が発売されていますが、ここ数年で、免疫調節や抗炎症作用などヒアルロン酸の新しい機能も発見されています。私も、ヒアルロン酸の研究を深掘りして、人々の健康に貢献できるような新しい価値を生み出したいです。

栗山:お客様一人ひとりの悩みに寄り添える、そんな価値のあるヒアルロン酸を生み出していきたいです。世界中でヒアルロン酸は使われていますが、各地域の気候や生活習慣によって、お客様の困りごとも違うのではないかと感じています。すると、ヒアルロン酸に求められる機能も違ってくるはずです。それらに対応できるような商品やサービスを、ヒアルロン酸を通して提供できるように日々研究していきます。

■動画
https://youtu.be/TRqzwf39oYw

※ 内容、所属、役職等は取材時のものです

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