循環する人と地球へのやさしい気持ち サラダクラブが野菜でつくる食の未来_kewpie standard : FILE 02
環境意識の高まりを受け、食品ロスの問題がクローズアップされています。家庭やスーパーから出る食品の廃棄だけでなく、食品の製造過程で生まれる食品ロスをいかに減らすかも、社会課題の1つといえるでしょう。
キユーピーグループの一員であるサラダクラブでは、「千切りキャベツ」や「ミックスサラダ」といったパッケージサラダの製造を手がけており、1999年の創業以来、食品ロス削減に注力してきました。数年前からは「野菜廃棄物ゼロ化」「循環型農業」をめざし、製造過程で出る野菜の未利用部を、堆肥として有効活用する仕組みの構築を進めています。また、業界で初めて、鮮度を加工日から5日間保持する「鮮度保持延長」の技術を一部の商品で確立するなど、家庭やスーパーでの食品ロスを減らす取り組みにも力を入れてきました。
その背景には、食品に携わる会社として「野菜を余すところなく使い切りたい」という想いがあったといいます。人々の健康や持続可能な社会への貢献をめざすキユーピーグループの取り組みと、そこに込めた想いに光を当てる特集「kewpie standard : FILE 02」では、サラダクラブがめざす「人と地球にやさしい食品製造のあり方」について、生産本部の小宮正和、技術者として鮮度保持延長について研究する石塚光彦、柴田隆喜に話を聞きました。
野菜を使い切ることが私たちの使命
― サラダクラブでは「野菜廃棄物ゼロ化」と「循環型農業」に注力しているとのことですが、その取り組みの背景から教えてください。
小宮:私たちサラダクラブではパッケージサラダを製造しておりますが、その過程で野菜の未利用部が発生します。たとえばキャベツやレタスの外葉、芯などの部分です。それをそのまま廃棄するのにもエネルギーが必要となり、当然ながら環境負荷がかかります。そこでスタートしたのが、生産工場における「野菜廃棄物ゼロ化」、そして「循環型農業」の構築をめざす取り組みです。
― 環境への想いが発端であると。
小宮:そうですね。加えて、食品に関わる会社として、野菜を余すところなく使い切りたいという想いもありました。また、環境に負荷をかけないかたちで野菜安定供給の体制を強化することができれば、お客様からの信頼獲得にもつながるだろうと。
石塚:小宮が言うとおり、農家のみなさんが丹精込めて育ててくれた野菜をしっかりと使い切ること。これはやはり、私たち食品づくりに携わる者の使命だろうと考えています。工場で働く従業員たちからも、製造のたびに捨てられる部分が出てしまうことに対し、もったいないという声も出ていました。これを解消することは、みんなが気持ちよく働くことにもつながるのではないかと思います。
― 具体的には、どのような仕組みなのでしょうか?
小宮:直営7工場で発生する野菜の未利用部を、工場内に設置された装置で発酵して堆肥の材料にしています。その堆肥化したものを契約産地へ納入し、野菜栽培にご活用いただいています。そして、そこでつくられた野菜をサラダクラブ工場へ納入してもらい、パッケージサラダを製造するという循環型の仕組みになっています。環境への負荷を低減するとともに、農家さんにとっても安価な国産堆肥が手に入るメリットがあります。
― 循環型農業の仕組みづくりに際し、最も苦労した点を教えてください。
小宮:契約産地に堆肥として使っていただくためには、心からご納得いただく必要があります。当然、農家さんにもこれまでに使われていた肥料があるわけですし、それを新しいものに切り替えて、うまく野菜が育つのかという懸念はあったと思います。そこで、堆肥のサンプルを試していただいたり、導入に成功している農家さんの情報を提供したりと、時間をかけてご理解をいただけるようにコミュニケーションをとっていきました。
― どれくらいの時間をかけたのですか?
小宮:全国の契約産地に導入いただくまでには、スタートしてから3年強はかかりました。時間は要しましたが、最終的にはご納得のうえで堆肥をお使いいただけるようになったと思います。実際に、導入いただいている農家さんにもお話を伺ったのですが、私たちが供給している堆肥はそれまで使われていたものより雨に強く、また一部の野菜はより育ちが良くなったとも聞いています。
加工日から5日間、野菜の鮮度が落ちない技術を確立
― これらの取り組みに加え、「千切りキャベツ」と「ミックスサラダ」の鮮度保持延長の技術も確立しているとのことですが、これはどういったものですか?
柴田:野菜は加工してから時間が経つと、どうしても変色をしたり、野菜特有のにおいが出てきてしまったりするんです。この技術を使えば、そうした臭気の抑制も含めて鮮度を長く保つことができます。
石塚:ポイントは、保存料などの薬品を使用せずに鮮度を維持している点です。お客様のなかには、保存料などを敬遠される方もいらっしゃいます。そこで、みなさまに安心してお使いいただけるよう、商品のパッケージにも保存料不使用であることを説明しています。
― ちなみに、鮮度が長持ちすることで、具体的にはどういった利点が考えられるでしょうか?
石塚:大きく3つの利点があると思います。1つ目は、より鮮度の良いもの、おいしいものをお客様にお届けできること。2つ目は、買い置きがしやすくなること。たとえばご高齢の方などは、毎日スーパーへ行くことが難しい場合もあります。そんなときにも、私たちのパッケージサラダであれば数日分を買い置きしておくことができます。そして、3つ目は食品ロスを減らせること。ご家庭でも冷蔵庫に食材を入れっぱなしにしたまま消費期限が過ぎてしまい、やむなく捨ててしまうことがあると思います。また、スーパーなどの店舗でも、売れ残ったものは廃棄処分となってしまいます。日持ちが1日でも長くなることで、そうした廃棄も少なくなるのではないでしょうか。
― スーパーにとっては売れ残りが減ることで、無駄なコスト削減にもつながりますね。
石塚:そうですね。スーパーはやはり売れ残りがもったいないので、なかなか多くの量を強気に発注することができない側面があります。そうなると、夕方には逆に商品が売り切れてしまうこともあったとお聞きしていました。鮮度がより長持ちする商品であれば、そうした機会損失のようなこともなくなるのではないでしょうか。
「十数年」の地道な積み重ねが「1日」の鮮度保持延長につながる
― 鮮度保持延長の技術を確立するにあたり、「サラダクラブだからこそできた」というポイントがあれば教えてください。
柴田:品質保証、研究開発はもちろん、原料調達、製造、営業、本社スタッフが同じ気持ちで、鮮度のよい野菜の価値をお客様にお届けしたいと考えているからこそ実現できたことだと思います。野菜は収穫された後も生きているのですが、収穫後や加工後は生命を維持するためにたくさんのエネルギーが必要となり、どうしても鮮度の低下が加速してしまいます。そこで、サラダクラブでは原料から加工、お客様にお届けするまで、なるべく野菜にダメージを与えない方法を確立し、鮮度保持延長を実現しています。
具体的には、たとえば、収穫から工場に野菜が納入されるまでの間も、野菜へのダメージが少ない低温流通や、炭酸水製法と呼ばれる方法を選択するなど、一つひとつの方法を見直しています。どれか1つが欠けても、5日間もの鮮度保持は難しかったのではないでしょうか。こういった全スタッフの「野菜にやさしい」へのこだわりは、サラダクラブならではだと感じております。
― 野菜を丁寧に扱おうという姿勢が伝わってきます。では、技術を確立するうえで最も苦労した点は何ですか?
柴田:すべての工場で安定的に同じ品質を確保することです。工程は同じでも、当初は工場によって効果にバラつきがありました。その原因を究明するために、夜間の工場へ入り、工程の一つひとつを確認・検証していきました。そのうえで細かな調整を行い、全国一律で、同じように鮮度が長持ちするパッケージサラダをお届けできるようになりました。
石塚:サラダクラブは1999年の創業以来、鮮度保持延長に取り組んできた、技術の積み重ねがあります。もともとは3日間だったところを4日間、さらにもう1日と、十数年にわたって研究開発を続けてきた地道な歩みが、現在の成果につながったのだと思います。
野菜が持つ価値を最大限に高めたい
― 最後に小宮さん、石塚さん、柴田さんが今後、社内で取り組んでいきたいこと、チャレンジしたいことがあれば教えてください。
小宮:サラダクラブでは、すべての工場で「循環型農業」の構築を進めています。現時点では契約産地への堆肥の供給ができていない工場も数か所ありますが、数年のうちには全工場で実現したいですね。
石塚:商品の製造において、技術の向上に限界はないと考えています。ですから、これからも研究所と生産が一体となって、新しい技術を積み上げていきたいと考えています。その結果、より良い商品をお客様にお届けすることで社会に貢献ができれば、技術者としてこんなに嬉しいことはないですね。
柴田:これからは鮮度の保持だけでなく、野菜が持つ価値を最大限に深掘りするような研究に注力していきたいと思っています。野菜はそれぞれおいしさも違えば、栄養価なども大きく異なります。それぞれの特徴を最大限に高められるようなアプローチを考え、野菜を食べる人がより増えてくれたら嬉しいです。
■動画
https://youtu.be/f76jY23Ti0E
※ 内容、所属、役職等は公開時のものです