「酢酸菌」で新たな食文化をつくりたい。お酢から広がる、ヘルスケアの未来_kewpie standard : FILE 03
生涯を通じた健康づくりへの関心が高まるなか、普段の生活に気軽に取り入れられる健康法は忙しい現代人の大きな味方になります。古くから私たちの身近な調味料である「お酢」も、近年健康や美容の観点から注目されている存在の一つです。
キユーピーでは長年、マヨネーズの味を左右する重要な原料であるお酢の研究を重ねてきました。そして、この研究を発展させ、お酢に含まれる「酢酸菌」が人々の健康に寄与する菌として大きな可能性を持っていることに着目。新規ビジネス案の社内公募制度「Try!Kewpie(※現在は「Kewpie Startup Program」に名称変更)」を通じて、「酢酸菌を食べる」という新規事業を立ち上げました。この酢酸菌の研究から、飲む人のための「よいとき(※現在は「よいとき One」にリニューアル)」や、花粉、ハウスダストなど鼻の不快感に悩む人に寄り添う機能性表示食品「ディアレ」といったサプリメントが生まれています。
マヨネーズやドレッシングなどの商品で知られるキユーピーが、酢酸菌に見出したヘルスケアの可能性とは?研究開発本部の奥山洋平と、ファインケミカル本部の吉岡智史に話を聞きました。
マヨネーズの原料である「酢」。その発酵に不可欠な「酢酸菌」
― 酢酸菌の事業化のきっかけは、新規ビジネス案の社内公募制度である「Try!Kewpie」からと聞いています。応募したきっかけを教えてください。
奥山:子どもの頃から生き物が好きで、その力で社会に貢献したいと考え、大学では微生物を研究しました。その後新卒でキユーピーに入社したのは、新しいことに挑戦できる会社だと聞いていたからです。
入社12年目の時に第1回目の「Try!Kewpie」の制度がスタートしました。その当時から業界内には、さまざまな切り口で健康に関する事業を新たに展開する企業が複数ありました。当社でも新たな発想でヘルスケア領域の事業を始められないかと考え、「Try!Kewpie」に応募しました。
― なぜ酢酸菌にフォーカスしようと考えたのでしょうか?
奥山:キユーピーの主力商品であるマヨネーズは、卵、油、お酢が三大原料です。そのなかでお酢は、グループ会社であるキユーピー醸造で製造・販売しており、50年以上研究が進められています。お酢を発酵させるためには複数の菌が必要なのですが、これらの菌のなかには食べたら健康にいい菌があるのではないかと考えて研究を発展させ、たどり着いたのが酢酸菌でした。
酢酸菌は、酵母や乳酸菌などと比べて数が増えにくい菌ですが、キユーピーでは酢酸菌を大量に生成する発酵法を独自で生み出しました。自分たちで「酢酸菌を食べる」という食文化をスタートできたことは、企業の仕事としてもすごく魅力的ですし、研究者としてはなかなかそういうテーマに出会えることはないので、幸せなことだなと思っています。
― 1回目の「Try!Kewpie」で奥山さんの提案が採択され、酢酸菌を活用した商品づくりが進められました。吉岡さんはどのような経緯で関わることになったのでしょうか?
奥山:「Try!Kewpie」で採択されたものの、一人で事業化を実現するのは難しいと感じていました。そこで、健康事業への情熱がある人を社内でスカウトしようと考えました。
吉岡:私自身、入社当初からヘルスケア領域で社会に役に立つ事業を立ち上げたいと思っており、社内論文で起案するなどの活動をしていました。ちょうど私も一人で活動することの難しさを感じていた頃に、奥山と出会ったんです。そこで、ともに「Kewpie Startup Program」で「酢酸菌の新たな機能に着目したヘルスケア事業」を起案したところ、採択され、私はそのなかで研究、商品企画、販売の一連を担当しました。
酢酸菌の特徴は「たくましさ」。地球上で食べられる数少ない菌の一つ
― そもそも、酢酸菌を含む食酢の健康機能というのは、いつ頃から注目されているのでしょうか?
奥山:古くは江戸時代の古文書などにも記されていて「どうやらお酢が体にいいらしい」ということが経験的には認識されていたのですが、食酢の健康機能が科学的に注目されるようになったのは、ここ20~30年ではないでしょうか。健康機能に関する研究は、分析技術の進歩などにより着実に進んでいます。
― 酢酸菌には、ほかの菌と比べてどのような特徴があるのでしょうか?
奥山:人が健康を維持するうえでは、日々の生活でさまざまな菌を取り入れることが大切なのですが、世界中に数千万種類という菌があるなかで、人間にとって有用なものは乳酸菌や酵母、納豆菌など、数十種類しかありません。その貴重な食べられる菌のうちの一つが酢酸菌です。
酢酸菌には二つの大きな特徴があります。一つ目が、アルコールへの耐性があること。ほかの菌はアルコールをかけると殺菌されてしまうのですが、酢酸菌はアルコールの中でも生き残ることができるたくましい菌です。そして二つ目が、酸を出してほかの菌を殺せること。こうした生命力の強さが酢酸菌の特徴です。
― 酢酸菌の健康機能研究に関するエビデンス量は、キユーピーが世界トップだそうですね。酢酸菌を高濃度に含む「にごり酢」の大量生産もキユーピーが世界で初めて成功させました。なぜそれが可能だったのでしょうか?
奥山:酢酸菌は数が増えにくい菌なのでそれほど注目されていなかったということもありますが、酢酸菌研究は私が事業に着手した2012年頃から社内で進み、論文の数もキユーピーが世界トップになっています。にごり酢の大量生産については、キユーピーグループには、酢酸菌に何を与えたらどんな動きをするのかを知り尽くしている、発酵のプロフェッショナルがいることが大きいです。
― ここからは酢酸菌の研究から生まれた商品についてお聞きします。まず、2016年に「よいとき」を発売しました。
奥山:「よいとき」は、酢酸菌がアルコールを食べてお酢をつくるというメカニズムから発想を得た商品で、お酒のつき合いが多い人などの健康維持をサポートするためのサプリメントです。そのため、ソムリエなど仕事上でお酒に関わる方々から、大きな反響をいただきました。実際に手に取っていただいたお客様からの声は、自分自身のモチベーションにもつながっています。
― そして、酢酸菌事業の第二弾商品として2020年に「ディアレ」を発売しました。
吉岡:「ディアレ」は花粉やホコリ、ハウスダストなどによる鼻の不快感に悩んでいる方に向けて発売した商品です。
お客様からは、「鼻の不快感が楽になった」「仕事中の精神的ストレスが一時的に軽減されるので、家で子どもたちと遊ぶ余裕ができた」といったお手紙をいただいています。悩みを抱えている人に喜んでいただけたんだなと実感し、開発者としても嬉しかったです。
自分とキユーピーグループの力で、毎日を楽しく健康に過ごせる人を増やしたい
― 酢酸菌事業の立ち上げには、さまざまな壁もあったと思います。どのように乗り越えてきたのでしょうか?
奥山:「Try!Kewpie」で選ばれたとはいえ、初めてのことばかりで私一人では厳しい状況でした。しかし、だんだんと吉岡をはじめ各部門のプロフェッショナルが集まってくれたおかげで、壁を乗り越えながら進んでいくことができたと思っています。
吉岡:最も大きな壁は、当社が得意ではないサプリメントの販売についてでした。それを乗り越えられたのは、営業部門に自ら異動して販売を担当したということもありますが、多くの方と積み上げてきたものがあったということがとても大きいです。
いまの「よいとき One」「ディアレ」は、「困難な社内調整、創意工夫した研究開発・品質保証、発売当初の地道な営業活動、軌道に乗せた販売戦略」の一つひとつを積み上げた末に存在しています。苦しく途切れかけた時もありましたが、いま想定以上の売れ行きでお客様に役立てる商品となっているのは、多くの方と一緒に積み上げてきたものによってたくさんの壁を乗り越えられたおかげだと思っています。
― 立ち上げから現在まで、続けていくための原動力になったものはありますか?
奥山:人の役に立ちたい、喜んでもらいたいという一心で取り組んできました。自分とキユーピーグループの力で、毎日を楽しく健康に過ごせる人を増やしたい。そのために、お酢の発酵菌である酢酸菌を食べる食文化をつくるんだ、という想いが原動力ですね。
吉岡:酢酸菌なら人々の悩みに応えられるということを信じてここまできました。実は私の子どもはアレルギーを持っているのですが、同じように家族や自分の健康に関してさまざまな悩みを抱えている方は数多くいらっしゃいます。そうした方々とこれまで100名以上接してきたなかで、どうしたら食の分野で人々の役に立てるのだろうかと考えてきました。キユーピーグループだからできることがあるはず。その想いが原動力になっています。
― さらに事業を拡大していくためには、「酢酸菌が健康維持に役立つ」ということを周知していく必要もありますね。
奥山:そうですね。世界にはさまざまなお酢がありますが、そのほとんどがにごり成分を濾過して、酢酸菌を取り除いた透明な状態で売られています。濾過せず酢酸菌が含まれたお酢が人々の健康維持に役立つことを、世界中の人々や企業に知ってもらいたいですね。そして、酢酸菌をもっとみんなに食べてほしいと思っています。
吉岡:酢酸菌は年齢問わず多くの人にメリットがある菌なので、多様な人々に届けるために社外の企業とも連携していくことも考えています。また、香りや味がほとんどないのでさまざまな商品形態で発売し、その機能を知ってもらうための取り組みを進めています。いままで私たちが積み上げてきたエビデンスをもとに、外部の研究機関、製薬や食品企業のみなさんと、新たな開発計画も進行中です。
キユーピーグループでヘルスケア分野に挑戦する意義とは?
― マヨネーズやドレッシングのイメージが強いキユーピーですが、ヘルスケア領域に挑戦する意義はどこにあると考えていますか?
奥山:当社は「食と健康への貢献」をビジョンに掲げている企業です。日本は超高齢社会に突入し、これからさらに健康課題を解決する商品が求められていくでしょう。だからこそ、キユーピーが培ってきたさまざまな知識や技術を活かし、ヘルスケア領域で社会に貢献していくことが必要だと思っています。
吉岡:そうですね。健康課題は時代によって変わりますが、キユーピーはこれまでも日本で初めてマヨネーズやドレッシングを発売し、「サラダを食べる」という食文化を日本に定着させ、健康を届けてきました。その時代や将来の解決できていない健康課題に対して酢酸菌がどう役立てていけるのか。研究を重ねて、機能を実証していくことが、ヘルスケア領域に挑戦する意義だと考えています。
― 最後に、酢酸菌を使ったヘルスケアの領域で、今後どのようなことを行っていきたいと思っているのか、教えてください。
吉岡:酢酸菌はお酢という酸性の強い環境のなかで生き抜く強さがあります。その強さを研究で深く掘っていくなかで、日々これだけのポテンシャルがあるんだと気付かされています。現代の未充足な健康課題に対して酢酸菌でできることを研究し続けながら、この菌が持つポテンシャルを引き出せるような商品を生み出していきたいですね。
■動画
https://youtu.be/z2OJUMwZO7M
※ 内容、所属、役職等は公開時のものです
機能性表示食品 届出表示 ディアレ:本品には酢酸菌GK-1(G. hansenii GK-1)とGABAが含まれます。酢酸菌GK-1は、花粉、ホコリ、ハウスダストなどによる鼻の不快感を軽減することが報告されています。 GABAは、仕事や勉強による一時的な精神的ストレスや疲労感を軽減する機能があることが報告されています。
・食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。
・本品は国の許可を受けたものではありません。
・疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません。
※2023年12月4日 「ディアレ」は「ディアレプラス」にリニューアル