野菜で笑顔を育みたい。10年越しで実現した「ヤサイな仲間たちファーム」に込められた想い_kewpie standard : FILE 04
キユーピーグループはこれまでさまざまな野菜の食べ方の提案や商品開発を通じて、野菜摂取の促進に取り組んできました。2022年5月、埼玉県深谷市にオープンした複合施設「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」(以下、ヤサイな仲間たちファーム)もそのひとつです。
施設内には、野菜の収穫体験ができる「体験農園」や、野菜や加工品を販売する「マルシェ」があり、大人から子どもまで、野菜の魅力を多角的に楽しむことができます。地域内外から注目を集めるヤサイな仲間たちファームですが、実は構想から10年という歳月をかけてオープンに至りました。
特集「kewpie standard : FILE04」では、ヤサイな仲間たちファームの発起人である松村佳代と、ともに働く宮下陽菜にインタビュー。ヤサイな仲間たちファームに込められた想いに迫ります。
「野菜の魅力を届けたい」。発端は社内ビジネスコンテストでの選出
― ヤサイな仲間たちファームは、もともと2012年の新規ビジネス案の社内公募制度「Try ! Kewpie」(※現在は「Kewpie Startup Program」に名称変更)の第1回目で選出された企画だそうですね。アイデアのきっかけはなんだったのでしょうか?
松村:純粋に「野菜を楽しむ場所をつくりたい」という想いが最初のきっかけでした。というのも、当時私はグループ内の惣菜工場である旬菜デリで勤務しており、ほぼ毎日のように野菜に触れる生活を送っていました。
その頃、野菜ソムリエ※の勉強をしていて、野菜の魅力を発信したいという気持ちも高まっていました。キユーピーグループの従業員が野菜のことをより深く知ったうえで働くことができたらもっと楽しく仕事に向き合えるのではないか?それならいっそのこと、広くいろんな方々に知ってもらえたら日々の生活ももっと楽しくなるのではないか?そんな想いから企画を提出するに至りました。
※ 一般社団法人 日本野菜ソムリエ協会が認定する民間資格。野菜・果物の幅広い知識を持っていることを認定する
― 宮下さんはオープン当時からマルシェのマネージャーに就いていますが、施設のどのようなところに魅力があると感じていますか?
宮下:「野菜の新たな魅力を伝えたい」「野菜を楽しんでもらう場を提供したい」というヤサイな仲間たちファームの想いに共感しています。
日常では野菜を食べることはあるものの、子どもたちがその野菜について深く知る機会は多くありません。お子さんが自ら収穫するなど野菜に触れる機会をつくることで、結果的にご両親も喜んでくださったり、家に帰った後もご家族で野菜のことを考えてみたり。そんな機会を提供できることも魅力だと感じています。
宮下:また、私自身はディーンアンドデルーカ(ニューヨークで創業した食のセレクトショップ)から出向して、ヤサイな仲間たちファームの仕事に参画しています。一流レストラン出身のシェフや、農業コンサルタントの先生、将来深谷で農業を始めたい若手など、さまざまなバックグラウンドを持つ仲間が集まって働いていることも、施設の魅力の一つだと感じています。
10年間、諦めずに企画を推進できた原動力とは?
― ヤサイな仲間たちファームは企画・構想からオープンまで10年の歳月を要したとのことですが、その過程にはどんなご苦労がありましたか?
松村:最も難航したのは、場所探しです。企画段階から、レストランに農園が併設された施設をつくりたいと思い描いていたので、商業施設と農園が一体化しているというのは譲れない条件でした。手探りであちこちに相談して進めていましたが、法律上の問題があったり、そもそもそのような広さを確保できる土地がなかったり。企画立案から3、4年が経った頃に「一旦企画を保留にしよう」という話も社内で持ち上がったのですが、諦めたくないという強い気持ちがあったので、兵庫県朝来市にある農業施設で研修をさせてもらいながら、同時に場所探しも行っていきました。
そんななか、かねてよりこの取り組みのサポートをしてくださっていた役員が、とある外部の方とつないでくれて、深谷市で農業と観光のための施設を募集する取り組みがあることを知りました。深谷市に決定した後も紆余曲折ありましたが、構想から10年の歳月を経てオープンにこぎつけました。
― 10年という長い間、諦めずに行動をし続けることができた原動力はなんだったのでしょうか?
松村:「絶対に野菜の魅力を伝えられる施設になる」という確信がありました。ですので、やり切るぞという強い気持ちが一番の原動力だったと振り返ってみて感じます。それに、かたちにしようと声を上げてくれる方や、具体的な段取りの仕方をイチから教えてくれた方など、社内のみなさんにもたくさんのサポートをしていただきました。そういった多くの人からの支えがあったからこそ、ヤサイな仲間たちファームをオープンすることができたと思います。
見て、食べて、収穫する。野菜の新たな魅力を発信するヤサイな仲間たちファーム流の方法
― ヤサイな仲間たちファームがオープンしたいま、お客様に野菜の魅力を伝えられているという手応えはありますか?
宮下:野菜の旬の見極め方や、今晩のレシピのアイデアを、お客様に直接お伝えできる距離の近さはヤサイな仲間たちファームならではで、お客様に楽しんでもらえているなと実感します。また、野菜王国と言われる深谷にお住まいの方でさえも知らないような野菜の食べ方や、小売店では見かけない珍しい野菜もご紹介できています。
松村:収穫体験や野菜教室を担当していると、リピーターのお客様が多く、「楽しかったからまた来たよ」というお声をいただくこともたくさんあります。最初はお子さんに参加させたいと家族でお越しいただくのですが、いつの間にかお父さんやお母さんのほうが夢中になっているケースも珍しくありません。あくまでも純粋にお客様が楽しめる場所をめざしていて、結果的にこの取り組みが食育につながるといいなと思っています。
― ご自身にとっても、この取り組みを通じて新たな野菜に関する発見があったのではないでしょうか?
宮下:はい。私はオープンに際して、深谷市に移り住みました。周辺にお店が多いわけでもないため、毎日の自炊は必須。そこで、実際に生産者さんから聞いたレシピを試したり、どれだけ忙しくても野菜たっぷりのお味噌汁だけはつくろうと決めたり。改めて野菜本来のおいしさを実感できたことは大きな気づきでした。また、野菜たっぷりの食生活を続けてきたことで、私自身、体調の良さを実感しています。
そのほかにも、ねぎを収穫した後にできる「ねぎぼうず」も、焼いて食べるとおいしかったり、オクラは実のみならず花までネバネバしていることを知ったり、未だに新しい発見が多いです。
どんな野菜にも価値を見出す。流通の規格にとらわれない場を
― ヤサイな仲間たちファームは生産者さんへの還元もひとつのテーマにしているそうですね。還元できていると感じた出来事はありますか?
松村:ヤサイな仲間たちファームのマルシェでは、野菜の規格を厳格に設定しておらず、たとえ小さな野菜でも、小さいなりの魅力があるので、それを打ち出していきましょうと伝えています。そうすることで、野菜の新しい価値をつくっていけますし、廃棄を減らすことで生産者さんの負担を減らすことができているかな、と思います。
また廃棄を減らすという点で言うと、2022年6月に起きた雹(ひょう)害で、生産者さんが育てたトウモロコシがほとんど出荷できない状況に立たされたこともありました。その際も、一部のトウモロコシをマルシェに並べ、傷が入っているけれど、味に問題はなくおいしく食べられるんだよというコミュニケーションを取りながら販売したことも印象的です。
宮下:「この前買ったトマトおいしかったよ」とリピートで来店してくださるお客様からポジティブなお声をいただくことも多く、生産者さんに伝えるととても喜んでくださいます。購入者の生の声をしっかりと生産者さんに伝えていくことも私たちの大切な役割だと思っています。
規格を満たした野菜づくりが難しい新規就農者さんに対しても、ハードルを定めていないため、いいものであれば販売に結び付けられることも私たちの強みです。新規就農者さんは意欲のある方が多いので、育てた野菜を売る受け皿になれたらと思っています。
松村:宮下が話してくれた通り、生産者さんに対して「ここを試す場にしてほしい」ということを伝えています。
たとえば「新しい野菜づくりにチャレンジしてみたいが、あまり売れないのではないか?」「どうやって野菜の魅力を届けよう?」といった悩みを耳にします。ヤサイな仲間たちファームのマルシェに置いてもらいさえすれば、私たちが野菜を販売するお手伝いができるのはもちろんのこと、POPを設置すれば食べ方や簡単なレシピまで一緒にお客様に伝えることができます。店頭でのお客様からのリアクションを踏まえ、生産者さんも一緒になってテストしていく。そんな場としても活用してもらえたらなと思っています。
野菜を通して、地域や生産者とつながっていく。ヤサイな仲間たちファームのこれから
― ヤサイな仲間たちファームはまだオープンしたばかりですが、すでに新しい取り組みをされていると伺いました。
松村:はい。近隣の学校や幼稚園、保育園の体験学習や、就農支援団体や子ども食堂の活動の場になっています。特に子ども食堂は野菜を提供するだけではなく、月に1度農業体験会を実施することで、子どもたちの居場所づくりを進めているところです。
宮下:そのほかにも、近隣のアウトレットやテーマパークと連携したイベントなども検討を進めています。先々はオンラインショップやふるさと納税を通して、深谷の野菜を全国のお客様に届けられたらとも考えています。
まだまだやりたいことは盛りだくさんで、たとえばレストランとは別にテイクアウトの惣菜を充実させたり、新鮮な野菜を使ったここだけのソフトクリームをつくったり。ヤサイな仲間たちファームに来たら新しくて面白い野菜に出会えるとお客様に感じていただける仕掛けをつくっていきたいです。
― それでは最後に、お二人が今後ヤサイな仲間たちファームで実現したいビジョンを教えてください。
松村:「野菜を楽しんでもらう」という当初の気持ちは変わらないのですが、楽しんでくださったお客様が、結果的にヤサイな仲間たちファームのファンになってくれたら嬉しいです。まずはお客様との野菜を軸としたコミュニケーションに力を入れ、繰り返し来ていただくリピートの方を今以上に増やしていきたいです。
私自身、普段からお客様には「あだ名で呼んでね」と伝えており、野菜教室では「まっちゃん」と呼んでもらっています。ヤサイな仲間たちファームでなら、それくらいの距離感で、これまでにない濃い関係をお客様との間につくれると確信しています。この関係性から生まれたお客様との接点を大切に積み重ねることで、新たな挑戦など今までにない価値が生まれるはずです。
宮下:最近では、マルシェを開く予定のある方が東京から視察にいらっしゃるケースもあります。その際に「この野菜をつくっている生産者さんは誰ですか?」と質問をいただくこともあるんです。野菜起点ではじまった取り組みですが、いまや深谷とほかの地域をつなぐ重要な役割を担っていると感じさせられます。今後さらに、地域外の方々と深谷の生産者さんとをつなぐハブのような存在になっていけたらと思っています。また、なにより私自身が野菜を食べることで体調管理をできるようになったので、お客様にも野菜を通じて健康的な食生活を提案していけたらと思っています。
■動画
https://youtu.be/m_5xQGQVsIg
※ 内容、所属、役職等は公開時のものです