現場の働きやすさが、お客様の満足につながる。「スマートファクトリー構想」が叶える未来_kewpie standard : FILE 08
少子高齢化や大都市圏への人口集中が社会課題となっている昨今。労働力不足も深刻化しており、製造業は業界全体で人手不足に陥っています。なかでも、キユーピーをはじめとする食品業界の製造の現場にも大きな影響が出ていることをご存知でしょうか?
そんな人手不足の課題を解決するべく、キユーピーが打ち出したのが「スマートファクトリー構想」です。スマートファクトリー構想では、サプライチェーン全体の効率化を図ることで従業員が活き活きと働き続けられる職場をつくること、それによって生産性が向上し、よりよい商品、よりよいサービスを持続的にお客様へ届ける仕組みをつくることを目指しています。しかし、それを叶えるにはこれまで人の手で行ってきた作業を機械に置き換えるなど高度な技術開発が必要不可欠です。
キユーピーではそのような課題をどのように乗り越え、スマートファクトリー構想を推進しているのでしょうか?取締役 常務執行役員 サプライチェーンマネジメント担当の渡邊龍太に話を聞きました。
現場に向き合うことで明確化した課題
― 社会全体で人手不足が深刻化するなか、キユーピーの製造現場ではどのような課題がありますか?
渡邊:キユーピーグループでも人手不足は課題と捉えています。従業員の減少は、生産能力の低下とイコールなので、企業にとっては大きな損失です。それだけではなく、人手不足によって現場がバタバタと慌ただしくなると、注意力が低下したり、管理の目が行き届かなくなったりします。結果として、品質面でのトラブルやケガなどが増えるリスクが高まってしまう点も大きな課題でした。
キユーピーグループでは、現場の主体性を重んじ、一人ひとりが主役となって改善活動を行うことを強みにしています。人手不足により改善について考える時間や活動する人数が減ると、強みを失うことになる。その影響は他社よりも大きいと考えています。
― そうした課題を感じるようになった背景やきっかけがあったのでしょうか?
渡邊:環境の変化が著しく、現場で働いている従業員の負担が増し、仕事に追われるようになった時期がありました。実際に従業員に話を聞いてみると、人手不足や複雑な作業工程によって、業務の負担が増していることがわかりました。このままの製造方法では長続きしないのではないかと危機感を抱くようになりました。
― 現場からの声が課題を浮き彫りにしたのですね。そうした現場の声に耳を傾けるのは、キユーピーの企業文化として根づいているのでしょうか?
渡邊:そうですね。キユーピーの価値を生み出すすべての起点は、現場にあると考えています。これは、私に限った話ではありません。キユーピーグループの生産に携わる管理職に共通している認識です。そのため、キユーピーグループでは絶えず現場に向き合う姿勢を心がけています。
現場で感じたことは、一人ひとりが活き活きと働けるようにするために、持続可能な生産システムを構築する必要がある、ということ。それが、スマートファクトリー構想へとつながっていきました。
従業員とお客様、双方にとってよい影響をもたらす「4つのS」とは?
― スマートファクトリー構想とは、どのような構想なのでしょうか?
渡邊:キユーピーグループの強みは、多彩なカテゴリーの商品を通してお客様に多様な価値を提供できること。一方で、多くの商品を扱っているがゆえに、業務プロセスの複雑化が課題となっています。その状況を脱し、キユーピーグループの強みを維持したい。そんな思いから打ち出したのがスマートファクトリー構想です。具体的には「4つのS」の実現を目指しています。
―「4つのS」とは何でしょうか?
渡邊:「Simple」「Smooth」「Satisfaction」「Sustainable」の頭文字を取り、「4つのS」と呼んでいます。
まずは、複雑な業務プロセスを「Simple」にし、仕事や情報の流れを円滑(「Smooth」)にする。その結果、従業員は働きやすくなり、ゆとりが生まれることで、仕事に対する満足度(「Satisfaction」)も向上すると考えています。職場環境が改善され、お客様にもよりよい商品を届けることができると、お客様もまた商品を手に取ってくれるはずです。このような好循環を持続可能(「Sustainable」)にしていくために、スマートファクトリー構想では従来の作業プロセスを刷新するような仕組みづくりを考えています。
―「4つのS」の実現に向けた、具体的な取り組みを教えてください。
渡邊:「フロントローディング」「最適化・自働化」「全量保証」「人と環境への優しさ」という大きく4つの施策を実行しています。
「フロントローディング」は、新たに商品をつくろうとした際に、製造ラインで生じる課題を想定し、商品の設計段階で検証を重ね、課題解決を図る動きです。その実現を目指し、新しい商品の製造方法をまず小規模に試す試験場「仙川SHIPYARD」を立ち上げました。
新たな商品を開発する際、既存の商品を生産している工場のラインを止めて、製造テストをする必要があります。しかしそれでは、とても大がかりな作業が発生するうえに、時間もかかる。簡単なテストをするのが難しい状況でした。工場のラインとは別の場で、小回りの利いた試行錯誤ができれば、商品開発のプロセスをより効率化できるのではないかと考えました。世の中のニーズが多様化しているなかで、新商品のテスト製造にスピード感を持って臨めることは、よりよい商品づくりに直結すると考えています。
「最適化・自働化」では、現場で使用する設備をよりよいものに整えたり、現場の重労働や複雑な作業を機械やロボットに置き換えたりすることで、従業員を大変な作業から解放して、業務の効率化を図ります。例えば、人手が多くかかるといわれている惣菜工場において、これまで手作業で行っていた惣菜パッケージのふた閉め作業を自働化しました。
実はこのふた閉め作業、空気が入りすぎないような角度の調整と、ふたがつぶれない絶妙な力加減が必要で、自働化は難しいと考えられていたんです。けれどここが自働化できれば、従業員は単純作業から解放され、ほかの仕事に時間を充てられます。技術開発には約2年もの時間を費やしましたが、ついにロボットによる自働化を実現できました。
ほかにも「全量保証」ではデジタル技術を駆使したデータ活用の進化、「人と環境への優しさ」では環境課題の解決や持続的な物流モデルの構築など、それぞれのテーマに合う新技術を導入し、「4つのS」の実現を目指しています。
スマートファクトリー構想の推進によって得られた現場の変化
― スマートファクトリー構想を推進するなかで、苦労していることはありますか?
渡邊:理想の未来を可視化し、共有していくことに苦心しています。スマートファクトリー構想は、製造現場に変革をもたらす夢のような取り組みですが、描いている構想を伝えるには抽象度が高く、私たち企業とお客様の双方にどんなメリットが生まれるのか、しっかりと共通認識をもつことが難しいです。
また、スマートファクトリー構想は、これまでにない新しい技術を必要とするため、キユーピー単独の技術や知見だけでは実現が難しい部分があります。そのため、スタートアップ企業と資本業務提携を結んだり、外部の企業と連携したりすることで、新しい技術を取り入れています。
― スマートファクトリー構想における、現時点での手応えを教えてください。
渡邊:惣菜のふた閉め作業を自働化できたことには大きな手応えを感じています。新たな技術を開発するために外部の企業と協業し、自働化できる範囲が広がったこともまた、「前進」と言えるのではないでしょうか。
「仙川SHIPYARD」はスタートしたばかりですが、スムーズなテスト製造が可能な環境を整えられたことは大きな一歩です。従業員が密なコミュニケーションを取りながら新商品の開発に励む様子も目にしているので、早くお客様にお届けして、感想をお聞きしたいですね。※
― 自働化の効果など、実際に現場から声は届いてきているのでしょうか?
渡邊:「自働化によって作業が楽になった」という声が挙がってきています。製造現場には、さまざまなスキルを身につけたいと考えている従業員が多くいます。従来の作業が自働化されたことで、ほかに新しい仕事を覚えたり、製造ライン全体を俯瞰して仕事を進めたり、といった動きも生まれています。
人を活かし、人に届ける。スマートファクトリー構想の先に思い描く未来像
― スマートファクトリー構想が実現した先には、どんな未来が待っているのでしょうか?キユーピー側とお客様側、それぞれの視点から教えてください。
渡邊:キユーピー側の視点としては、スマートファクトリー構想の施策の一つである「最適化・自働化」が進むことによって、現場で働く従業員の単純作業や、負荷の大きな作業が減り、個々のスキルアップの時間が増えることを期待しています。一般的に、ロボットの導入における作業の自働化を「省人化」と言いますが、私たちは人を省くのではなく、従業員が活躍する機会を増やすことで人を活かす、「活人化」を目指しています。
また、サプライチェーンのリードタイムが短くなると、資金の回転も早くなりますので、財務基盤も強化され、新しい挑戦に投資できる体制が整います。スマートファクトリー構想を起点に、企業としてさらなる成長を遂げられると期待しています。
お客様側の視点としては、キユーピーのサプライチェーンが効率化することで、より便利に商品を購入できるようになるでしょう。また、社会課題に真摯に取り組んでいる企業であることを知っていただくことで、より安心して商品を手に取ってもらえるのではないかと考えています。
スマートファクトリー構想は、ややもすると、新しい技術を導入すること自体が目的と捉えられがちですが、技術はあくまでも手段にすぎません。新しい技術を導入し、従業員の「活人化」を図ることで、お客様によりよいサービスを提供する。そんな、「人を活かし、人に届ける」好循環を生み出していきたいです。
■動画
https://youtu.be/K71uhFtbteA
※ 内容、所属、役職等は取材時のものです